• TOP
  • RSS
  • コロナが変えた「経済システムの新基準」。日中のCSV事例から学ぶアフターコロナにおける持続可能な経営

共有する

コロナが変えた「経済システムの新基準」。日中のCSV事例から学ぶアフターコロナにおける持続可能な経営

新型コロナウイルスを想定した新しい生活様式の公表など、アフターコロナの世界とそのあり方を模索し続ける日本社会。その一つとして、政府や企業、NPOなどの各団体が、持続可能な経営目標を実現するSDGsに改めて高い関心を寄せている。そして、そのSDGsの目標達成のために行われているのが、社会と共有する価値を創造することが求められるCSV(Creating
Shared Value)に基づいた事業戦略だ。

一方、ひと足早く復帰を迎えた中国では、アフターコロナにおける生存策を多くの企業が模索していた。そのため同国には「コロナ危機をチャンスに変え、持続可能な経営の実現を目指すヒント」を日本のCSV戦略から学びたいと考える経営者も少なくない。

こうした最中、「『アフターコロナ時代の企業にとって持続可能な経営とは』~CSV(Creating Shared Value)をどう活かすか~」というテーマで、7月19日にオンラインフォーラムが開催された。

ゲストは、コーポレートガバナンスの研究を行う一橋大学ICS教授の名和高司氏、中国のCSVを推進する電通公共関係顧問(北京)有限公司CEOの鄭燕氏だ。なおモデレーターは、電通パブリックリレーションズの大川陽子氏が務めた。両名が語る日本と中国のCSV現状とその事例を通し、アフターコロナ時代にCSVをどのように経営へ活かすかのヒントを探る。

<プロフィール>
写真右上:名和高司 氏
一橋大学ICS教授、ハーバード・ビジネス・スクール卒(ベイカースカラー)、ファーストリテイリングなどグローバル企業の社外取締役を担当。

写真左上:鄭燕 氏
電通公共関係顧問(北京)有限公司CEO、中国CSV(CCSV)の発起人も務める。

写真中央下:大川陽子 氏
株式会社 電通パブリックリレーションズ コーポレートブランド・デザイン部所属

コロナが作り出す「新たな経済システムとSDGsの新基準」

アフターコロナの世界に向け、「人々の欲望が原動力となっていた資本主義から、志を重視する志本主義へ移行していく未来とその可能性」を名和氏は示した。

名和「環境活動家であるグレタ・トゥーンベリさんをはじめ、事業家や科学者、外交官、音楽家といった7名のメンバーが毎年ダボスで行なっている会議があります。そこで今年キーワードに上がったのが”人を中心とする経済主義の誕生とその可能性”に関する話題です。私はその先にあるのが、人が志を持って行動する志本主義だと考えています」

「経済システムの変化に合わせ、新たなSDGsが求められる」と名和氏は続けた。その新SDGsとアフターコロナの世界をかけ算した社会から、これからの経済を考える必要があるからだ。

名和「新SDGsではDをデジタル、Gをグローバルに置き換えます。コロナによって多くの国家や地域が分断されている中で通用する事業モデルを作るためには、サービスのデジタル化と、多極化したボーダフルな現実を意識しつつ国境を超える活動を再設計することがポイントになるからです。また、サステナビリティ(持続可能)という意識だけではコストのみが重なってしまうため、その点においても有用です。」

アフターコロナの社会と共存していく中で、企業の価値を測るものさしも変わろうとしている。これまで企業はESGによってリスクを管理し、SDGsによって売り上げ拡大を行なってきた。一方、社会課題へ向き合うほど利益が毀損されていたのも事実。こうした現状の打破を期待されているのが、リスクも加味した上で、売り上げと利益の両立ができるCSVなのだ。

日本独自のCSVを作るヒントは「和」にあった

では、アフターコロナの社会において、日本企業がCSVを実現するために何が必要となのだろうか。そのキーワードが、「幸福感」「共感共創力」「日本的な価値観」の3つだ。これらを押さえることで「日本独自のCSVであるJCSVを実現し、アジア初の価値観として世界へ届ける一歩」と名和氏は主張する。

名和「これまで日本人が大事にしてきた和を尊ぶことが、社会との調和を考えるヒントになるんです。また日本は健康寿命がトップである一方、幸福度は最下位ですよね。だからこそ伸びしろがあると思います。」

和を尊ぶというのは、価値観や立場の違いを理解した上で、共通の目標を達成するために力を出し合うことだ。あらゆる人が共に力を発揮できる環境を形成することが、JCSVへの第一歩だと言える。

そのJCSVの先駆けとなる日本企業が、ファーストリテイリングだ。同社が展開するアパレルブランド ユニクロには、通気性が抜群の素材「エアリズム」を使った衣服がある。最近発売されたエアリズムを素材にしたマスクは、「コロナ禍」「ユニクロだからの視点」を組み合わせたことで商品化できたと言われている。名和氏はこの事例を「CSVの実践が世界へ飛び出すパスポートになる可能性を示した」と話す。

また、アフターコロナの社会においてCSV定着のカギとなるのが、「顧客との接点が少ないバックオフィスメンバーにまで、CSVのやりがいや価値を実感してもらえるかどうか」だ。

名和「自身の仕事が間接的に社会へ影響を与えていることを自覚してもらえるかが重要です。語弊があるかもしれませんが、CSVの浸透は布教活動に近いと思っています。それぐらいの密度で社内アピールをしていかないと、経営者の信念は浸透しないんです。」

CSVのような概念を一朝一夕で組織に浸透させることは難しい。だからこそ宗教を広めるかのように、社員が見ている会社HPや広報誌などを通し、事あるごとに信念を伝える努力をすることが求められる。

「Z世代」とビジネスの未来を語り合う中国企業

中国CSV(CCSV)の発起人として、同国のCSVを推進する電通公共関係顧問(北京)有限公司CEOの鄭氏は「CSVがそこまで中国内で浸透していないからこそ、日本から学びたい企業が多い」と話す。

鄭「CSVという言葉は中国にもありますが、まだまだ浸透していません。世界とのつながりに中国企業も価値を感じているからこそ、日本企業からそのコツを学ぼうとしているんです。それだけ商業価値と社会価値の両立に対する意識が中国では高まっています。」

中国におけるCSVの取り組みはこれからである一方、独自の視点からCSV活動を進めている企業はすでに存在する。それがINUK(イヌーク)というバックブランドをはじめ、数々のトラベルグッズを手がけるUTCだ。

同社はこれまで、サステナビリティを意識した長期的な視点からの社会価値の構築に積極的だった。しかし新型コロナウイルスが与える企業への影響を目の当たりにすることで、短期的な商業価値を高める大切さを実感したのだ。こうした気づきの背景には、環境や社会問題に関心が高いZ世代との対話も関係する。

鄭「UTCの創業者たちは、コロナ禍において企業の存在価値を改めて確かめ、若者と共に環境に優しい商品づくりなどINUKのリブランディングに取り組みながら、環境意識の高いZ世代向けにECサイトでLIVE販売に取り組んだことによって、ソーシャル面でも話題づくりをしようとしています。まさに中国的なスピードとやり方でCSV活動を進めている企業と言えるでしょう。」

学び合いと対話ーー持続可能な経営を目指すためのヒント

最後に、次なる節目となる2050年に向けて「今何ができるかを目標から逆算しつつ、若者と消費者を巻き込みながら考えることの大切さ」を名和氏は説いた。

名和「目標から逆算するなかで、重要になるのは顧客体験の作り方です。時代に合わせて顧客の価値観は変化するため、私はカスタマートランスフォーメーションと呼んでいます。中でも若者たちの価値観は世代と共に変化するからこそ、彼らと一緒に未来を考える必要があるんです。」

日本はCSVの取り組みが先行している一方、中国には圧倒的な速さで成長する力と爆発力がある。アフターコロナの世界においても、両国の企業が刺激しあうことは今後のCSV発展には不可欠なはず。

両国が学び合いながら、これからを担う若者との対話を続けるーーアフターコロナの世界における持続可能な経営を目指すための一歩だ。これらのヒントを得るためにも、名和氏が語るように、時代共に変化する価値観に対応できるだけのデジタル力やボーダフルを意識した事業視点を養っていきたい。

取材・文:杉本 愛

出典元の記事はこちら

関連記事