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男性の育児休暇はなぜ取れない? 20万いいねのパタハラ告白ツイート主に聞いた、その実態

2020年7月1日、国内に住む20代の女性が発信した1件のツイートに、7.1万件のリツイート、20.5万件のいいねが付いた。その内容は、「夫が2週間の育休を有給で取得した結果、復帰当日に部署異動になった」というもの。

このツイートがここまで反響を呼んだ理由は、「明らかなパタニティハラスメント事例だったから」に違いない。許せないと憤慨した人、同じようなパタハラを経験した人が次々と共感し、数十万の反応へと膨れ上がったのだ。

今回は、このパタハラを受けた張本人であるSさん(30代)とその妻であるAさん(20代)にパタハラが起こった背景を聞くとともに、3ヶ月の育児休暇を取得した30代男性と父親支援事業を行うNPO法人・ファザーリング・ジャパンにも取材。

パタハラが起こる背景と男性の育児休暇取得の必然性を聞いた。

「休んだらポジション外された」Twitterに無念の叫び

こちらが話題となったツイート。その一部始終がこうだ。

Sさん(夫)とAさん(妻)は、もうすぐ2歳になる長女と生まれたばかりの長男を含めた4人家族。2人目となる長男が生まれるにあたり、Sさんは出産予定日の半年前にあたる2019年12月から、直属の上司と総務部の部長に「育休取得」の意思を伝えていた。2ヶ月の取得を希望していたものの、その希望は却下され、「復帰後の時短勤務を検討する代わりに、2週間の取得に留めてほしい」という会社の意向を受け入れた。

事態が急変したのは、育休取得2週間前のこと。急に社長から呼び出されたSさんは、「もし育休を取得すれば部署を異動させる。訴えても会社は罰金を支払うだけだ」と、脅しのような言葉を一方的に聞かされたという。

そして、2週間の育休取得後の出勤初日、Sさんは異動辞令を受けたのだ。土日休みで残業も少なかった以前の部署とは異なり、早番遅番に加え、土日出勤も発生する子育てとの両立が困難な部署だった。

「今回育休を希望したのは、両親からサポートを受けられない中で、子供の健全な成長のために私たち親が不安なく伸び伸びと育児できる環境を整えたいと考えたからです。半年前から上司へ交渉し、引き継ぎも十分に行った上で報復人事のような対応をされたことは、非常に残念であり、将来性がない会社だと失望しました。でも、だからこそ吹っ切れて、こんな時代遅れの会社は辞めようと決断できたんです」(Sさん)

とはいえ、自己都合か、会社都合の退職かで失業保険の支給時期などが大きく変わる。Sさんが労働基準監督署に相談をすると、「辞めるのいつでもできるので、まずは半年間の育児休暇を取得して、その間に先の事を考えてはどうか」と提案された。

そして現在、半年間の育児休暇中だというSさん。退職については、復帰後に改めて会社と相談する必要があるという。

なぜ育休は取れない?何から変えるべき?

今回、Sさんの身にパタハラが起こった背景を整理すると、いくつかの環境要因が見えてきた。以下がSさんの会社の特徴だ。

・団塊世代の60代後半の男性経営者
・子会社とグループ会社を合わせて130人ほどの中小企業
・家族経営、かつ社長のワンマン経営
・男性社員が育児休暇を取得した実績なし(Sさんが初めての取得者)

古い価値観を引きずっていると言われる団塊世代の男性は、急激に移り変わる時代の変化を受け入れられない傾向が強い。実際、Sさんの会社の社長の言い分はこうだった。

「奥さんが家にいるのに、なんで男が休む必要があるんだ。会社は育休取得を拒否できないが、会社を休むやつは評価しない」

時代遅れもはなはだしい主張だが、このような価値観を持つ社長がワンマン経営していれば、一向に育児休暇を取得しようとする男性社員は現れないだろう。人手不足の課題を抱えやすい中小企業なら、なおさらだ。

厚生労働省「雇用均等基本調査」より

厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2018年の男性の育児休暇取得率は、わずか6.16%。取得期間は5日未満 が56.9%、8割以上が1か月未満と十分な休暇を取得できた男性はごく一部だ(2015年の同調査より)。育休を取得したい男性は増えているにもかかわらず、なぜ取得率が上がらないのだろうか。

厚生労働省「男性の育児休業の取得状況と 取得促進のための取組について」より

2017年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施したアンケートによると、育児休暇を取得しなかった理由の上位は、「会社内の制度が整備されていない」「育児休暇を取得しづらい雰囲気がある」「人手不足」だった。

現在の日本では、男性の育児休暇を取得できる環境が整っている企業のほうがめずらしい、というのが実情なのだろう。

男性の育児休暇取得を推進するNPO法人・ファザーリング・ジャパンにアドバイスを求めたところ、Sさんが勤務している会社は「育児休暇制度を整える以前に、そもそもの労働環境に問題がある」と指摘する。

「男性の育休取得率を上げるには、トップが育休取得の意義を理解し、トップダウンで推進すること、残業が常態化していない職場環境を作ることが不可欠です。Sさんの場合、十分な時間を取って上司や人事とご相談されていますし、ご本人が希望を譲って会社の要望も受け入れられています。今後の対応としては、Sさんがされていたように労働基準監督署へ相談する、あるいは労働組合があれば労働組合に相談するしかないと思います」(ファザーリング・ジャパン 林田 香織さん)

「絶対に取るべき」体験者が訴える育休の必要性

男性の育児休暇取得に関して、一部だが「男性が取得するものではない」と考える男性社員もいる。実際のところ、男性の育児休暇は本当に必要なのだろうか。3ヶ月の育休を取得した男性にも話を聞いてみた。

2019年9月に長男が誕生し、10月から翌年1月まで育休を取得した長谷川 哲さん(30代)。当時、勤務していたのはフィンテック分野の外資系企業で、制度上は最大16週間の育休取得が可能、過去に男性社員が育休を取得した実績が複数あった。会社全体として育休取得を推奨する雰囲気があり、休むことに対して一切気まずさはなかったという。

「育休を取得しようと思った理由は、一生に一度しかないこの時間を家族と過ごしたいと思ったから、そして以前に育休を取得した男性社員から、『奥さんにとっても、子供にとっても、一緒にいてあげるのが絶対にベストだよ』と強く勧められたからです」(長谷川さん)

長谷川さんのタスクは上司がすべて引き継ぎ、時には外部委託で対応するなどして仕事をマネジメントしていたとのこと。

「ステークホルダーとなる取引先には、あらかじめ育休を取得する旨を伝え、その期間はレスポンスが遅くなるかもしれないと状況説明をしていました。また、上司には『どうしても無理だったら言ってください』と話していました」(長谷川さん)

そういった配慮もあり、休暇に入った最初の2週間こそ何度か連絡がきたものの、トラブルはなく休暇を終え、復帰もスムーズだった。

では、3ヶ月の育休中、長谷川さんはどのように過ごしていたのか。

「授乳以外はできるので、それ以外のすべての育児と家事を妻と分担しながら、やっていました。それでも妻は授乳のために3時間おきに起きなければならないし、僕よりも寝不足だったと思います。

取得してよかったと思うのは、妻に精神的・体力的な余裕ができたこと。これらを妻が1人でこなすのは、できたとしても相当ツラいと思います。そして、家事・育児がどういうものなのかを体感できたことです。

タスクを効率的・効果的にこなすことで成果を得る仕事とは違って、家事や育児は淡々と同じことを繰り返すなかで、時には想定外のハプニングが起きるもの。成果を求めようとせず、何かが起きても『こういうものなんだ』って受け止める心構えが必要だなとわかりました。

子供が泣くとか思い通りに動いてくれないのは、そういうもので、自分のせいじゃない。効率的にやりたくなるけど、うまくやろうとしないほうがツラくならないと思います」(長谷川さん)

「他の男性に育休取得を推奨するかどうか」を尋ねると、長谷川さんは力強い口調で「間違いなく取得したほうがいい」と語った。

「特に初めての子供の場合、自分たちもわからないことだらけ。情報があふれている分、惑わされることもありますが、一緒に子育てをする中で自分たちのベストを探していけばいいのかなと。妻の立場からすると、周囲からいろんなことを言われると思いますが、夫として支えて守ってあげることができたら幸せですよね」(長谷川さん)

長谷川さんファミリー

今回、パタハラを受けたSさんも、育休を取得し家事・育児をする中で、「男性の育児休暇は不可欠なものだ」と実感したと言う。

「私自身は、家事・育児が得意なほうですが、それでもかなりツラかった。子供が2人いるということで常に時間に追われていて、世のお母さんの大変さを痛感しました。これを妻が1人で背負っていたらと思うと、恐怖を感じるほど」(Sさん)

また、妻であるAさんも「夫が家にいてくれたことで、心身ともに救われた」と話す。

「家事育児をしていると、1日中まともに人と会話をしないことも当たり前で、そんな中で夫が一緒にいて会話をしてくれるだけでも、メンタルがまったく違います。特に産後1ヶ月の間は夫のサポートが不可欠だったなと思います」(Aさん)

政府は、2020年までに男性の育児休暇取得率を13%以上に向上させる目標を掲げている。世間的にも「男性の育児休暇取得を推進しよう」という風潮がある中で、このようなパタニティハラスメントが後を絶たないのはなぜなのか。

今一度、男性の育児休暇の必要性と現場で起きている実情に目を向けてみてほしい。

<取材協力>
Sさん
Aさん
NPO法人・ファザーリング・ジャパン
長谷川哲さん

取材・文:小林香織
編集:岡徳之(Livit

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