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PC国内最大手が描く“未来の働き方” ――レノボ・ジャパン留目社長に聞く

» 2017年12月25日 10時00分 公開
[RPA BANK]

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「働き方改革」「生産性革命」「人づくり革命」・・・。矢継ぎ早にスローガンを掲げる政府は、いよいよ深刻化する少子高齢化と人手不足への焦りを隠さない。少しでも多くの働き手を労働市場に迎えつつ、いかに業務を効率化して新たな価値を生み出すか。あらゆる企業が試練のときを迎えた中、国内シェア首位のPCベンダー「NECレノボ・ジャパングループ」を率いるレノボは、同2位である富士通のPC部門もグループ化すると先般発表。新たな体制下では国内PC市場の約4割を握り、圧倒的な最大手としてビジネスシーンの変革をリードする地位に就く。海外資本のグローバル企業でありながら、開発・製造拠点を置く日本で“ものづくり”の担い手としての顔も併せ持つレノボグループは、今後目指すべき働き方を、どのように描いているのか。さる11月30日に開催された「RPA SUMMIT 2017 IN OSAKA」で基調講演を行ったレノボ・ジャパン株式会社の留目真伸社長に聞いた。

プロフィール

留目 真伸(とどめ まさのぶ)

レノボ・ジャパン株式会社代表取締役社長 兼 NECパーソナルコンピュータ株式会社代表取締役執行役員社長。1971年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、トーメン(現・豊田通商)に入社。デル日本法人、ファーストリテイリングなどを経て、2006年にレノボ・ジャパン入社。常務執行役員として戦略・オペレーション・製品事業・営業部門統括を歴任し、11年からNECパーソナルコンピュータの取締役を兼任。レノボ・NEC両ブランドのコンシューマ事業を統括する。15年4月から現職。


100年人生に備えた“ライフ・シフト”

−モバイルPCのメーカーとして、働く場所にとらわれないテレワークを積極的に推進。2016年4月からは全社員を対象とした「無制限テレワーク」の制度を導入しているそうですね。現状はいかがですか。

現場のミーティングでは、やはり直接顔を合わすことが重視されていて、導入2年目の今も「オフィスに来ないのが当たり前」とまではなっていないのが実情です。ただ、四半期に一度設けている集中的なテレワーク実施日は参加率が95%。本社オフィスはほぼ無人となりますが、支障なく業務が回っています。テレワークでオフィスを不在にする社員との認識共有を意識するようになった結果、導入前よりも社内のコミュニケーションが円滑になるという成果も得られました。

私はNECレノボ・ジャパングループの代表として、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータの社長を兼務しています。東京本社のほか、山形県には製造拠点の米沢事業場が、群馬県にはサポート拠点の群馬事業場があり、さらに横浜にはレノボグループ全体で世界4カ所しかない開発拠点の大和研究所があります。

従業員数は2社の合計で、約2,000人。NECのPC部門を受け継いだこともあり、外資系というよりもむしろ典型的な“日本の会社”という雰囲気が強く、社員の年齢層も40代後半から50歳が最も厚くなっています。

−社長ご自身も1971年生まれの46歳。年齢構成のボリュームゾーンですね。

ええ。さらに昨今話題の本『ライフ・シフト』(リンダ・グラットン著)の中で将来を予測されている「ジミー」という人物も、ちょうど71年生まれでした。世界的に平均寿命が100歳に近づく中、「60代で定年を迎えて引退」というモデルが、ジミーや私には通用しません。もう従来のやり方では逃げ切れなくなった、同書にあるとおり「人生の次の段階に向けて、いまどのようなシナリオを選ぶべきかを考えなくてはならない」世代です。

働き方改革や生産性向上といったトピックは、もともと国策や企業経営の文脈から叫ばれだしたものですが、社員1人ひとりの今後の人生にも当然大きく関わってきます。無制限テレワークは、社員が自ら働き方を見直していくための第一歩。社内に向けて発している「働き方改革を“自分事”として捉えてほしい」というメッセージにも、少しずつ賛同が得られてきているように思います。

社内業務の簡素化は「やるしかない」

−日本経済を牽引してきたメーカーの視点から、いま働き方を変えるべき理由をお聞かせいただけますか。

レノボはグローバル企業ではあるものの、PCの開発・製造拠点を日本に置き、この国のものづくりの蓄積や、「ThinkPad」「PC-9800シリーズ」という伝説的ブランドを生み出した系譜を受け継いでいます。当社が現在世に送り出している製品に関しても、最先端のテクノロジーをリーズナブルな価格帯で普及させる存在として自信を持っています。

ただ一方、PC市場全体の伸びが以前に比べて鈍化していることも確かです。PCの誕生から35年が経ち、スマートフォンの普及といった市場環境の変化もある中、当初掲げていた「コンピューティングパワーを個人に解放する」という価値を、いまの社会に合わせて再定義していく必要があります。

レノボにも、Googleから買収したモトローラブランドのスマホ事業がありますが、登場してまだ10年のスマホでさえ、そろそろ需要のピークを迎えると言われ始めています。私たちの人生は長期化するのに、事業の寿命は逆にどんどん短くなっているのです。

メーカーとしては、消費のトレンドが「モノ」から「コト」に移っていることも受け止めなくてはなりません。コトというのは、ハード・ソフト・サービスが一体となったトータルの「顧客体験」ですから、企業1社ですべてを提供することはできませんし、製品単体・サービス単体でのカスタマイズにいくら力を入れても、それだけで価値を出すことは難しくなっていきます。ですから「オープンイノベーション」、つまり異分野のパートナーが得意分野を持ち寄って一貫したソリューションを作りあげていくことが欠かせません。

あらゆるビジネスは世の中の課題を解決し、それによって対価を得る営みです。ここまで挙げたような事情を踏まえ、今後もビジネスで付加価値を出そうとするなら、会社の外に出て行って、社外とのつながりの中から解決すべき課題を見いだしていくのが唯一の方法だと分かるはずです。

私たちは今後、めまぐるしい事業環境の変化に合わせてステージを移すような形で、さまざまな働き方を経験していくことになるでしょう。“標準的な日本企業”として長年やってきた当社のようなメーカーも、自社限定でないポータブルなスキルが身につく組織となるために働き方を変えなくてはならないのです。

−ビジネスで価値を生むため、社外と協業する重要性が増したということですね。これまで社内業務に手間を惜しまず、きめ細かく処理してきた担当者は発想を変える必要がありそうです。

そうですね。2005年にレノボが日本IBMからPC事業を譲り受けた後ほどなく入社した私は、増大した国内顧客のサポート業務を中国・大連の拠点に移行させるプロジェクトに加わりました。海外に出す業務の多くを簡素化し、定型的にまとめましたが、個別の顧客ニーズに柔軟な対応をしていた現場の担当者からは、やはり反発を受けました。

定型化の対象業務を具体的に検証したところ、従来のきめ細かい対応が真に顧客のメリットになっていたかといえば、必ずしもそうではありませんでした。仕事にプライドを持っていたからこそ、割り切った定型化が受け入れにくかったのだと思いますが、業務を再構築するためには避けて通れない道でした。

人手不足とオープンイノベーションの進行によって、10年前のバックオフィスで行ったような決断がいま、あらゆるホワイトカラー業務で迫られています。今後は社内で完結する業務、とりわけ内部向けの事務作業を、極限まで簡素化していくべきです。社内業務の標準化・定型化に関して議論の余地はなく、「やるしかない」というのが私の考えです。

社外プロジェクトで貢献する社員に

−大きな変革では、目指す姿を共有することが重要です。社内業務を効率化するツールはすでに存在し、効果も実証されていますが、会社組織で働く社員が業務を効率化した先でどのような価値を生み出していくのか。留目社長のイメージを聞かせてください。

自社の社員に望むこととして言えば「社外のプロジェクトで会社人ではなく社会人としての価値を発揮し、課題の解決に貢献する体験」を積んでもらいたい。当社が進めていくオープンイノベーションを担うと同時に、これからの自分自身にとって無形の資産となるスキルを身につけてほしいと願っています。社員がもっとオフィスの外へ出て行けるように、会社として社内業務の定型化・効率化を進めるということです。

じっさい当社には、本業である製品企画のかたわらデザイナーとして社外プロジェクトに参画するなど、フリーランスに近い働き方をしている社員が既にいます。異業種・異分野の方々と接点を持ったとき、PCメーカーに所属する自身の知見を役立てるのはもとより、製品が必要となればスムーズにご提供する。さらにVRヘッドセットやスマートスピーカーといった、活用シーンを模索している自社製品に役立つヒントを見つけて会社に持ち帰る。1人でも多くの社員が、こうした働き方を実地で体験していくことが大切だと考えています。

その一方、社内業務にはなるべく人手をかけないようにしていくわけですが、ただ単に定型化・標準化するだけでなく、人間ができなかったプラスアルファを加えることも大切だと考えています。当社でも、営業担当者の判断で販売店に支給していた販売奨励金の制度運用を見直す際にAIを導入したことで、仕組みそのものをシンプルにできただけでなく、効果が出ているところへ予算を集中的に配分できるようになりました。

−異業種と連携するオープンイノベーションの中で、企業としてはどのようなポジションを目指すのですか。

コトが重要になる時代でも、われわれはやはりメーカーですから、最終的に貢献できるポイントは製品です。さまざまなプロジェクトに採用いただく中で、引き続き自社の製品を洗練させていくことが基本だと思います。

製品単体でいえば、すでにどの分野でも競合以上の価値を提供できるものをそろえているつもりです。課題解決に向けた社外の取り組みへ積極的に参画していくことを通じ、共創型の価値創造に社員がいち早く適応していくことが自社のチャンスを広げ、企業としてのプレゼンスを向上していくと信じています。

当社であれば、参加したどのプロジェクトでも「NECレノボ・ジャパングループと組めばうまくいく」と言っていただき、次のプロジェクトでも声が掛かる会社になることが重要。社員全員がもっと社外に目を向けていくための働き方改革であり、業務効率化だと思います。

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