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9割が女性従業員の現場でRPAが実現する、新たな働き方とは――船井総研コーポレートリレーションズのRPA活用術

» 2019年02月22日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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2018年7月、総務省が発表した2017年の就業構造基本調査によると、育児をしている女性の就業率は64.2%、介護をしている女性の就業割合は49.3%にのぼるという。2012年時点の調査から比較すると、育児をしている女性は11.9%、介護をしている女性は4.4%とそれぞれ上昇を見せており、育児・介護世代の女性が活躍できる体制づくりが企業にも求められている。

そのような時流の中で、女性の新たな働き方を実現するべく、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)での業務効率化を実践しているのが、株式会社船井総研コーポレートリレーションズだ。

同社は中小企業への経営コンサルティング事業を展開する船井総研グループであり、グループ各社の事業活動を側面から支援するシェアードサービス会社であるが、社員数約200名のうち9割以上を女性が占めるという。そのため同社では、業務の拡大に伴う残業の増加や、産休・育休等による人員の増減に柔軟に対応し、女性従業員のライフスタイルを支援するための組織づくりが課題となっていた。

2017年12月からRPAの導入を開始したという同社は、現在50体ものロボットが稼働し、数百時間単位での業務時間短縮を実現したという。導入開始から短期間で効率化の成果をあげるため、どのような取り組みを行なってきたのか、話を聞いた。

株式会社船井総研コーポレートリレーションズ カスタマープラットフォーム部 部長 山本恭仁子氏

■記事内目次

  • 業務量の増加や従業員のライフスタイルの変化にRPAで対応する
  • 人力で300時間かかる6,000件の登録作業も、今ではロボットが62時間で完了させる
  • 「ロボットの働き」を見える化することで、RPAの効果を実感してもらえた

業務量の増加や従業員のライフスタイルの変化にRPAで対応する

――まずは、RPAを導入している部署の業務内容について教えてください。

山本恭仁子氏(カスタマープラットフォーム部 部長): RPAを導入しているのは、船井総研の営業サポート業務を担うカスタマーデータベースグループです。具体的には、セミナーや研究会などの集客、顧客管理などを行っています。

戀田道子氏(カスタマーデータベースグループ データ管理チーム? チームリーダー): このグループには2チームあり、私たちはデータ管理チーム?に所属しています。データ管理チーム?では、顧客情報の登録やメンテナンス、セミナー参加情報の登録、新規顧客の与信業務を行なっています。管理ツールとしてはSalesforceを使っています。

田坂祐子氏(カスタマーデータベースグループ データ管理チーム?): データ管理チーム?では、チーム?と共通の顧客登録・参加登録に加え、ダイレクトメールを発送するための名簿作成を担っています。

株式会社船井総研コーポレートリレーションズ カスタマーデータベースグループ データ管理チーム? チームリーダー 戀田道子氏

――RPAを導入する以前には、どのような課題をお持ちだったのですか。

山本: 年間、新規で8,800件ほどの顧客情報を取り扱うこともあり、業務量が年々増えていくという状況がありました。そのため必然的に残業時間も増加してしまい、業務効率化自体が大きな課題となっていました。また、当社の社員は約200名のうち9割が女性で、産休、育休、介護といったことで人員がたびたび増減します。人員増減にも柔軟に対応できる体制をつくりたいと考えていたときに、情報システム室からRPAを紹介されました。

――RPAを導入するにあたり、対象業務や使用するRPAツールはどのように選定されましたか。

山本: まず「ロボットに稼働させることで、人間が作業した時と比べて大幅に工数削減ができること」と、「繰り返し発生する業務であること」を基準に、ロボット化する対象業務を決めました。そして、それに対して費用対効果が得られるか、ロボットをうまく当てはめられるかといった視点でRPAツールを選んでいきました。

対象業務はその時点で10以上あったので、ロボット1台ごとにPCが必要になるデスクトップ型RPAでは環境を整えることが難しいと判断しました。そのため、サーバー型RPAを前提にし、いくつかのツールを検討するなかで、実績や価格面でBizRobo! に決定しました。

――実際の導入はどのように進めていきましたか?

山本: 導入にあたっては、情報システム室ではなく、現場のスタッフがロボットを開発・運用する体制にしたいと考えていました。まったくの素人でもロボット開発を行えるサポートを必要としていたときに、日頃から複合機でもお世話になっているリコージャパン社に話を聞いたところ、RPAセミナーを開催するなど知見をお持ちだということがわかり、同社の支援のもとRPA導入を進めていくことになりました。

田坂: 導入は2017年12月からスタートし、1カ月間にわたって、私と江川の2名がリコージャパン社から基礎的な研修を受け、ハンズオンの実習なども含む体系的な知識を学びました。その後の2カ月間は週に2日、終日での来社サポートを受けつつ、Salesforceに適したロボット開発を進めていきました。システム開発など全く経験のない素人ですから、最初の頃は苦労しました。それだけに初めてロボットが動いたときには感動しましたね。

株式会社船井総研コーポレートリレーションズ カスタマーデータベースグループ データ管理チーム? 田坂祐子氏

人力で300時間かかる6,000件の登録作業も、今ではロボットが62時間で完了させる

――初めにRPAを適用した業務はどのようなものでしたか?

江川みずき氏(カスタマーデータベースグループ データ管理チーム?): まずロボット化したのは、Web経由でお申し込みのあったお客様の情報をSalesforceに登録する「顧客登録」と、セミナー参加者情報を登録する「参加登録」の業務です。顧客登録は従来、人力で1件当たり約5分かかっていましたが、ロボット化により約1分30秒に短縮でき、全件数のうち約60%をロボットが処理できるようになりました。

参加登録は人力で1件当たり約3分かかっていたものが約30秒でできるようになり、現在では全体の99%以上をロボットが担うことができています。従来、手作業でやっていた時はミスが発生することもありましたが、ロボットが処理することでミスがなくなったのは非常に心強いです。

戀田: RPAが特に活躍するのは、やはりそれらの業務が一時的に増大するときです。船井総研グループで毎年夏に開催するセミナーでは、6,000名ほどの参加登録を行う必要があり、300時間分もの人力での作業が発生していました。RPA導入後は、人間の作業が大幅に削減され、ロボットだけで約62時間で終わるようになりました。このおかげで、業務担当者の精神的な負担も大幅に軽減されましたね。

田坂: また、送付したダイレクトメールが宛先不明で返ってきたときに顧客情報を「宛先不明」に変更するという作業もあるのですが、それについてもロボット化しています。この処理は非常に件数が多く、ときには名簿作成のための社内開発システムすらも動作が遅くなるほどでしたが、現在はロボットが夜の間に作業を終わらせてくれます。

実際にロボットを作っていくなかで、ロボットには一連の作業すべてを実行させるのではなく、定型作業の箇所だけを部分的に代替していくことが重要なのだとわかりました。他にもさまざまな業務を自動化し、全体では50体ほどのロボットが稼働しています。

――50体ものロボットが自らシステム上で作業を行える環境を整えているのですね。そのための運用管理はどのように行っていますか?

江川: まず、システム上での作業が行えるよう、Salesforce上にロボットの専用アカウントを作成しました。そして、顧客情報は他部署の方も作業をする可能性があるため、ロボットが基幹システムで作業するときには、あらかじめ支障のない時間帯をヒアリングした上で「今から稼働させます」というメールをロボットから関係者に通知するように設定し、ロボット管理用のホワイトボード上で「9時 顧客登録」のように記載し稼働状況を共有しています。今はこの方法で問題ありませんが、今後ロボットが増えていったらそのほかの管理方法も検討していきたいです。

株式会社船井総研コーポレートリレーションズ カスタマーデータベースグループ データ管理チーム? 江川みずき氏

「ロボットの働き」を見える化することで、RPAの効果を実感してもらえた

――RPA導入の際に、最も苦労した点はどのようなところでしたか?

戀田: スタッフへの意識統一ですね。今まで人間が行なっていた業務をロボットに任せて、人間はロボットの作業内容をチェックするという業務に変化していくのだと頭を切り替えてもらう必要がありました。各チームの業務内容をヒアリングしつつ、作業にあたっての新たなルールを決めていきました。各チームリーダーの協力もあり、「ロボットを導入すれば早く帰れるようになる」とメリットを訴えたことで、この変化については積極的な理解を得られたように思います。

江川: 合わせて、ロボットの働きを見える化する工夫もしました。これはSalesforceの仕様でもあるのですが、セミナーの参加登録を行うと、メールで登録者の名前が関係者に送信される仕組みになっています。先にお伝えしたように、ロボットには専用アカウントを発行しているので、ロボット導入後はそのメールに「担当者:ロボット」と記載されるようにしました。これまで人名が記載されていた欄にロボットの名前が入ることで、「人の仕事をロボットが代行するとはこういうことか」と実感してもらえたようです。

――今後はどのようなRPA活用を考えていますか?

戀田: 2019年からの組織改編で、私たちは「RPAユニット」として、RPAを前面に打ち出した部署へと変わります。今後も、ロボットを開発できる人を増やしていくとともに、幅広い業務にロボットを導入して効率化を進めていきます。

山本: さまざまなデジタル化が進む現在でも、申込書などの半数はまだFAXで届き、手入力しています。それをできるだけペーパーレス化していくためにも、デジタルシフト化でのRPAの組み合わせなども検討しています。また、RPAにより業務を大幅に効率化できたことで、業務評価制度も変えていかなければならないと考えています。中長期的には私たちの経験を生かす意味でも、船井総研グループの中核であるコンサルティング業務や、他のグループ会社においてもRPAを展開していきたいですね。

インタビューを受けた笑顔の4人と、株式会社船井総研コーポレートリレーションズ 常務取締役 清尾修氏(写真右端)

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