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動き出した「AIロボット」。実現する非定型業務の自動化

» 2017年05月15日 10時00分 公開
[RPA BANK]

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RPA BANK

ホワイトカラー労働者が担ってきた業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の技術は、自動化の程度に応じて3段階(Class1, Class2, Class3)に区分されている。最終形の「Class3」として構想されているのは、意思決定や業務手順の再構築といった相当高度な知的活動の自動化だが、現状でRPA導入の大多数を占めるのは、人間が行ってきた定型業務をほぼそのまま自動実行する「Class1」。そこから1段階進み、例外対応や非定型業務をカバーできるRPAとして最近実用されだしたのが「Class2」で、発展著しいAIを応用していることから企業の注目度も高い領域だ。国内におけるClass2のRPAをリードするAI開発企業、ネットスマイル(株)(東京都文京区)を訪ね、技術の現況と展望を取材した。

2年で15件、例外対応もできるRPAをカスタムメイド

コンピューターの演算能力向上に伴い、人間以上のパフォーマンスが期待できるようになったAIの応用を目指して2013年に設立された同社。齊藤福光社長は、昨年立ち上げられた「一般社団法人日本RPA協会」の理事も務めている。 「ここ数年の世界的なAIブームは、もともとグラフィック処理に使われていたGPUという半導体を使うことでAIが桁違いに賢くなったという技術的なブレイクスルーによるものです。その中で私は、企業の業務や消費者向けのサービスにAIを応用していこうと当社を立ち上げ、BtoBの分野ではホワイトカラー業務の自動化にチャレンジしてきました。RPAという名前を聞いたとき、そうした当社の取り組みに名前が付いたという印象を持ったのです」。

こう振り返る齊藤社長は現在、母校の東京大学本郷キャンパス近くにオフィスを構え、若手の技術者ら11人を率いる。メンバーの半数は、AIの研究が盛んな欧州からの採用。重要な論文は英語で執筆されるため、プログラミングの技術だけでなくネイティブレベルの英語力が必須という。 こうした体制のもとで同社は最近2年間、およそ15社の企業を顧客に、RPAとして機能するAIを開発してきた。特徴的なのは、複数のパッケージ製品が既に存在するClass1ではなく、ゼロからのカスタムメイドが必要なClass2に特化している点。まず個別のユーザーに最適化する開発を行い、得られた蓄積をもとに各用途でのパッケージ化・横展開を進めていくロードマップを掲げている。

前例のない業務自動化をAIが可能に

同社のRPAが主に担うのは、顧客企業が持つ調査結果や販売記録などをもとに、データの解析や抽出を行うといった作業だ。

具体的には▽キャッシングの返済が滞るリスクの高い利用者の判別▽複数の様式が混在する請求書の読み取りと基幹システムへの転記▽化学プラントのさまざまな測定値をもとにした異常検知、などでAIを応用。例外対応が多く非定型性の高い業務を自動処理するというClass2のRPAを実用化した。これらの作業に共通するのは、日常的に繰り返される業務でありながら完全なパターン化ができず、これまで人間の経験や勘に頼る部分が多かったという点だ。 一見込み入った定型業務も「二者択一」の組み合わせに再構成すれば、Class1のパッケージ製品を使って相当程度の自動化が可能だ。だが、業務の例外処理や非定型性が高くなるほど選択肢が爆発的に増えていくのも事実。複雑さが一定のレベルを超えるケースにおいては、最適な方法を自ら探し出せるAIが有効なツールとなる。 そこまで複雑化している実業務は多くの場合特殊でもあることから、自動処理には汎用ではない“その領域専門”の学習をしたAIが不可欠。だが、実業務へのAIの導入は始まったばかりで前例は皆無に近い。そのため、AI開発企業にカスタムメイドを依頼するのが現状ほぼ唯一の方法となっている形だ。

Class2のRPAを導入しても人間の能力が不要となるわけではなく、むしろAIの力を借りることで、判断の核となる部分へ特化するようになるという。導入前後の変化について齊藤社長は「作業に必要な人数は半数以下となりますが、業務の内容も変化します。それまで単なる作業者であったのが、AIを監督する上司の立場に移っていくのです」と話す。

AIの選択と学習データ作成に強み。Class2を低コストに実現

ホワイトカラー労働者が携わる業務の内容は多岐にわたるが、何らかの情報をインプットして加工後にアウトプットしていることからすれば、それらをすべて「情報処理のプロセス」と一元的に捉えることも可能だ。この意味でClass2のRPAは「集めた情報を整理して重要性を判断し、適切な答を返す」というホワイトカラーの業務をAIによって自動化するツールだといえる。

AIが実際の業務を処理するためには、演算の方法(アルゴリズム)をいくつか組み合わせた上で、サンプルデータを投入して事前学習を行う必要がある。性能を左右するのはアルゴリズムの設計や各所の微調整、そして学習に用いるデータの品質。こうした技術面について齊藤社長は「特定のアルゴリズムに依存せず適切な構成を選べること、調整のノウハウがあること、さらにAIが効率よく学習するためのデータの下準備(クレンジング)から一貫して行えることが当社の強み」と自信をみせる。同社の場合、RPAに委ねる業務の大枠が決まり、学習データを受け取ってからプロトタイプが動くまでおよそ1カ月、費用は400万円程度。圧倒的な開発スピードと低コストは、巨大IT企業では実現不可能な水準という。

デジタルレイバーの巨大市場が出現。その先に見えるものは

国内では少子高齢化、海外では人件費上昇が同時に進行していることから、日本の大手企業はホワイトカラー業務の合理化・再構築をそろって迫られている。

「昨年から業務自動化についての相談が一気に増えました。RPAを導入したい業務として、1社あたり30件程度がリストアップされてくる。各業界の主要企業は今年度中にRPAへの理解を深め、来年には当社から100社程度の導入を支援することになるでしょう」と齊藤社長。人間と共に事務作業を担う「デジタルレイバー」の巨大市場が、いよいよ姿を見せてきた。

圧倒的な計算能力を誇るAIが人間の仕事を奪い、やがて人を支配するのではないか。どうしても気になるそんな疑問をぶつけたところ「そもそも私がこの会社を設立したのは『ドラえもん』のようなロボットを作りたかったから。実際にそのための研究を現在も進めています」と答えた齊藤社長。かなり突飛に聞こえる発言だが、その真意は次のようなものだという。 「あの猫型ロボットは、先祖の運命を変えたいという子孫の目的があって送り込まれたもの。同様に、まず人間の夢があり、その夢をかなえるエージェントとして能力を発揮するのがAIの基本です。ビジネスの側面でAIは、RPAとして業務の代行を始めましたが、将来的には働く人の知識を補完したり元気づけたりといった、メンター的な役割を果たしていくと考えています」

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