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RPAと上手に付き合う正攻法「ロボットの未熟さを許せる寛容さ」−−RPAエンジニアリング代表大石純司氏に聞く(前編)

» 2018年09月07日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

RPAの導入エンジニアリングから運用、保守、サポート、さらにはソリューション開発までも手がけるRPAエンジニアリング株式会社。同社は「BizRobo!」を提供するRPAテクノロジーズの100%子会社として、不足するRPAエンジニアを育成・派遣し、様々なRPAソリューションの保守運用をワンストップで提供することを目的に、2017年2月に設立された。RPAという言葉が普及する10年前からロボット開発に取り組み、これまで手がけたロボットは20,000ロボット以上。圧倒的な実績を持つ代表取締役社長の大石 純司氏に、現在のRPA市場が抱える課題とその要因、日本と欧米のRPAの取り組みの違いなどについて話を聞いた。

「自動化」にばかり期待値が高まりすぎているRPA。上手な付き合い方はロボットの未熟さを許せる“寛容さ”

──日本国内では2017年頃よりRPAを導入する企業が相次ぎ、その普及ペースは世界でも例を見ないとも言われています。同時にRPAの導入、運用、スケールそれぞれにおける課題も多く出ていることも実態としてあると聞きます。それぞれの本質的な課題はどのようなところにあると考えますか。

大石: 「RPA」という言葉が一気に普及して定着するに従って、人々の間に「しっかり使い、すぐに効果をださなくてはならない」というプレッシャーも増大してしまっていると感じています。ポジティブな面にせよ、ネガティブな面にせよ、RPAに対してあまりにも正しく向き合わねばと、ある意味で気負ってしまう傾向が強くなってきているのではないでしょうか。

私は「RPA」という言葉がまだ国内に存在していなかった2000年代末期から、「BizRobo!」の元となるロボットを扱ってきました。当時のユーザーはそもそもロボットを情報システムの一部だとはみなしておらず、あくまで人手を補完する「デジタルロボット」と認識していました。そのため、まずは課題があって、その解決のための手段として人間が行う作業をロボットに代替するという意識が強かったのです。

というように業務主体で利用が進められていたこともあり、人間に対する評価と同じように、時にうまくいかないことがあっても「あれ?なんかロボットさぼってるみたい」とか冗談を言いながらサポートするといった姿勢が一般的でした。この姿勢こそが、従来のようにITの力で人間の仕事を単に自動化するという発想ではなく、RPAで実現するデジタルロボットを“教育”しながらロボットとコラボレーションしていく上で合理的なものなのだと考えています。よく、ロボットが誤動作したらどうするんだ、という懸念も頂きますが、一般の業務でもいきなり入ってきたばかりの新人にぶっつけ本番で重要な業務をさせることはないですし、人と同じようにロボットを教え成長させていくという視点を当たり前にしたいですね。

それが現在は、名だたる企業や団体で数万時間の削減に成功といった見出しを様々なメディアで見ることも多くなり、「RPAって凄いんだ」と人間以上に完璧な存在として見られるようになっていると感じます。そしてRPAがロボットとして本来発揮できるパフォーマンス以上の期待感が蔓延するとともに、誤解が生じてしまっていると思います。また、他社に遅れまいとかなりのスピードを求められる企業様も多くいらっしゃいますが、42.195kmをトップスピードで走り続けられる人はいません。ペース配分というのは必要かと思います。

確かに将来的にはAIと融合していくことでイメージのギャップも小さくなると予想できますが、少なくとも現状においては、「自動化」という本来RPAの一側面にすぎない部分にばかり期待値が先行してしまっていることを危惧しています。これだけではこれまでの情報システムの延長に過ぎません。「自動化」というのはシステムの用語であり、完全自動化を目的にした取り組みは情報システムとして確実に構築するのが一番でしょう。

RPAの本質的な価値は、これまで見える化されていなかった業務がRPAの導入をきっかけに見える化されたり、あるいはRPAに携わる方々が「仕事の本来の価値は人の抱える課題解決であり、人をより幸せにすることである」ということを再認識し、この業務はそもそも何のために存在しているのか、その前提とゴールは何か、それを人が実施し続けるべきか、ロボットに任せるべきか、任せる場合にはどの程度かといったマインドセットが起こることにあると考えています。

日本型RPA人に寄り添い人を助ける“ドラえもん”

──大石さんはこれまで登壇されているセミナーなどでもよく「日本型RPA」と表現されていますが、その真意はどこにあるのでしょうか。

大石: 「日本型RPA」と表現しているのには、日本企業と欧米企業では経営スタイルが異なり、そもそもロボットという概念に対するイメージが根本から違うことが理由にあります。もともと「RPA」という言葉を使い始めたのは、欧米のプレイヤーやアナリストだとも言われていますが、そのコンセプトというのは日本におけるRPAに対してのそれとは微妙に異なっているのです。

日常業務の中に多文化が混じりあう欧米企業の場合、まず間接部門を中心にアウトソーシングできる業務は積極的に外出しして人件費をはじめとしたコストの削減や効率化を進めるのが一般的です。そして、アウトソーシングできない個々の業務自体もできうる限り標準化していく取り組みが進んでいて、そこにRPAがパズルのようにはめ込まれ置き換わっていくイメージです。

対して日本のホワイトカラーの現場というのは一般的に、一定以上の知的水準と、共通の文化的認識、そして長期雇用を前提とした業務フローの上に成り立っています。そのため、 それぞれの業務の担当者個人に依存する傾向が強いのですね。場合によっては悪い意味でのおもてなしが働いてしまい、同じ業務であっても担当者ごとや、対象顧客ごとにローカルな処理が微妙に組み込まれている業務も多く存在します。

一方で欧米企業の場合は、そもそも様々なバックグラウンドを持った人材により成り立っていて、人材の入れ替わりも活発です。そのため、常に流動性の高い状況下でも業務が回るような仕組みが常に追求され、標準化の文化が根付いているわけです。

このような日本企業の独自性について考えたとき、「RPAを正しく実践する」ための答えを欧米に求めるというのは正しくないと言えるでしょう。例を挙げるとすれば、海釣りの本を読んだ知識で、川に魚を釣りに行くようなものです。そうではなく、まずは何よりも先に、自分たちが何処に立っているかの認識を社内で共有することが必要かと思います。

「自分たちがRPAによって、何を得たいのか?」と自問自答してみることです。その際には単なる数値の話ばかりではなく、働き方をどう変えるかという根本的なビジョンに立ち返ることも重要でしょう。

このような背景から、日本の場合は人をロボットに置き換えるというのではなく、複雑に設計された人間の仕事のすき間をロボットが埋める事で、一人当たりの業務能力を拡張するというのが主流のアプローチとなりますし、自動化という言葉を使うことにより全く別のものがイメージされてしまうことを危惧しています。

そのため我々としても、人とのコラボレーションを促すようなRPAソリューションを推奨しているのです。つまり、日本企業に合った人をサポートするような使い方が「日本型RPA」の特徴です。

「BizRobo!」も、日本企業の現場による推進のためにつくられてきた典型的な日本型RPAであると言えます。もともとは、「高校生でもロボットが作れる。」というのがソフトウェア自体の設計思想でもあるので。少し砕けてかつ思い切った表現すると、日本型RPAというのは目標に向かって共に進んでいく相棒でありドラえもんのような存在なのです。

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