共有する

テクノロジーに導かれたスポーツの行き着く未来

(Writer:鈴木)

【スポーツへの関心の大きさ】

2015年5月13日、スポーツ庁を設置するための文部科学省設置法改正案が、参院本会議で満場一致で可決・成立した。今年10月に、文部科学省の外局として「スポーツ庁」が発足する。

これに先立ち、文部科学省は、平成22年8月26日文部科学大臣決定において、スポーツ立国戦略を示しており、そこでは以下の重点戦略5点が明示されている。(※1)
・ライフステージに応じたスポーツ機会の創造
・世界で競い合うトップアスリートの育成・強化
・スポーツ界の連携・協働による「好循環」の創出
・スポーツ界における透明性や公平・公正性の向上
・社会全体でスポーツを支える基盤の整備

これらの戦略を遂行するにあたり、テクノロジーの果たす役割が大であることは想像に難くない。特に「世界で競い合うトップアスリートの育成・強化」、すなわち競技レベルの向上において、テクノロジーの担う役割は近年飛躍的に重要なものとなっている。

 

【競技レベルの向上とテクノロジー】

競技レベルは主に以下の要素によって決定づけられる
①競技者の個人能力
②競技戦略
③ジャッジメント
いずれの要素も既にテクノロジーと切っても切れない関係にある。

①競技者の個人能力の向上
競技者の現在の客観的な能力をデータ化し、足りない能力を補うトレーニングメニューを作成する、という典型的な分析テクノロジーは言うまでもなく、そもそもその前段階として、遺伝子情報や身体的特徴を分析し、競技の向き不向きを判定して、各個人に向いている競技に誘導するということが既に行われている
(※2)また、プロスポーツチームが有望選手のスカウトにビッグデータを活用するケースも現れており、今後間違いなく増加してくと思われる。(※3)

②戦略の向上
競技戦略にテクノロジーを用いて成功した例としては、メジャーリーグにおけるオークランド・アスレチックスの「セイバー・メトリクス」の活用事例が有名である。「マネーボール」として書籍化・映画化もされているため、ご存じの方も多いだろう。経験則に基づき感覚的に扱われていた競技成績を統計学に基づいて再構築することで、選手の能力を評価するための新たな指標を生み出し、ライバル球団の持っていない有用な情報を独占することとなった。

2014 FIFA ワールドカップで印象的な強さで優勝したドイツ代表チームは、同ワールドカップに向けて「Match insights」という最先端の分析ツールをSAP社と共同開発し、大会期間中、ドイツ代表の宿舎に置いて活用していた(※4)

また、2010年11月、バレーボールの女子世界選手権で32年ぶりの3位となり銅メダルを獲得した日本女子バレーボール代表チームの戦略が話題となったのを覚えている方もいるかもしれない。試合中にリアルタイムにプレーデータを収集・分析し、タブレット端末に連携されるデータを把握した上で監督が選手に指示を出すことで、状況に応じた適切な指示を出すことを可能とした。(※5)

アメリカンフットボールの世界でも、ビッグデータを活用して戦略が立てられている。例えば、最新のデータ解析ソフト「Hudl(ハドル)」は、プレーごとに用いたフォーメーションや状況が映像に加えてテキスト化し、これにより戦術の成功率などの”傾向”を数値化することができる。その数値化された”傾向”に基づき、状況ごとに成功確立の高い戦術を選択することを可能にしている。

③ジャッジメント
競技レベルの向上にはプレーに対するジャッジメントの正確性向上も不可欠の要素である。有名なのはテニスの審判補助システム「ホークアイ」だろう。脳手術やミサイル追跡に使用されている技術を転用し、ボールの軌道を3次元で解析することで、際どいプレーの際により正確なジャッジメントを行うことを可能としている。また、ワールドカップでも導入されたサッカーのゴールラインテクノロジー、メジャーリーグで導入されている投球追跡システム「PITCHf/x」、フェンシングの「電気審判器」といったプレー結果を分析し、ジャッジメントを助けるテクノロジーが既に活躍をしている。

 

【スポーツの行き着く未来】

このように、スポーツの世界は既にテクノロジーの大きな恩恵を受けている。経験則に基づいたアナログな要素は排除されていく運命にあると言わざるをえない。他方で、さらなるテクノロジーの発展により、競技者個人能力の向上・プレー戦略・ジャッジメントといった競技結果を左右する要素の最適解が導かれてしまう未来があるとすれば、その未来におけるスポーツ競技とはどのようなものになってしまうのだろうか。最適解を選択し続けることで、現代よりも競技レベルが圧倒的に向上したとしても、競う前からおおよその結果が決まってしまうのであれば、そこに競技としての魅力は残っているのだろうか。このように考えると、競技レベルの飛躍的な向上と競技結果の不確定さをともに体験している現代人が、最もスポーツの魅力を享受できているのかもしれない。

※1 文部科学省「スポーツ立国戦略:文部科学省」
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/23/08/__icsFiles/afieldfile/2011/08/22/1310054_04.pdf
※2 国立科学スポーツセンター 「スポーツ医科学最前線『第7回 運動能力と遺伝』」
http://www.jpnsport.go.jp/jiss/column//saizensen/saizensen_07/tabid/449/Default.aspx)
※3 オルタナティブ・bログ 「直観が支配していた「新人スカウト」をビッグデータで見える化する、サンフランシスコ49ers」
http://blogs.itmedia.co.jp/hana/2013/08/49ers.html
※4 The Register 「SAP: It was our Big Data software wot won it for Germany」
http://www.theregister.co.uk/2014/07/22/germany_worldcup_sap_hana/
※5 日本経済新聞 「iPadと動画が変えた戦術 女子バレー飛躍の舞台裏 」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0803L_Y1A800C1000000/

関連記事