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「OCR×RPA」――スキャナー市場シェア世界No.1・PFUが実践するOCR活用の意外なノウハウ

» 2018年09月27日 10時00分 公開
[相馬大輔RPA BANK]

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RPA BANK

RPA BANKが2018年6月にRPA BANK会員向けに実施した「RPA利用実態アンケート調査レポート」(有効回答数:720社)によると、RPA未導入/トライアルフェーズの企業でOCR及びチャットボットを導入していると回答した企業は21%、一方でRPA導入済みの企業では40%の企業がOCR及びチャットボットの導入を進めていると回答し、積極的な活用が明らかになった。

イメージスキャナーで世界一のシェア※を誇る株式会社PFU(石川県かほく市)は、「働き方改革」の一環として自社オフィスの紙文書を9割以上削減。ペーパーレス化を通じた業務効率改善を進めてきたほか、2016年からはイメージスキャナー・OCRとRPAの組み合わせによる生産性向上にも早くから取り組んできた実績を持つ。デジタルトランスフォーメーションのソリューションを一体展開するメーカーが自ら実践して得たノウハウについて、横浜・みなとみらいの同社横浜本社で担当者らに聞いた。

(左から)笈田幹則氏(業務統括部 グループリーダ)、古木隆義氏(業務統括部 統括部長)、浜崎哲也氏(業務統括部 ソリューション購買部部長)、向井田絵理氏(業務統括部)

紙文書を4ヶ月間で92%削減。「1人1日1時間」の余力を創出

――イメージスキャナーからOCR、文書管理ソフト、さらにRPAまで、貴社は紙ベースの作業をデジタルに変える一連のソリューションをお持ちですが、自社オフィスのペーパーレス化も率先して進めているそうですね。

古木隆義氏(業務統括部 統括部長): はい。社会的な課題でもある働き方改革を、われわれの強みが生かせるアプローチから進めていこうと、2014年からペーパーレス化を起点にした生産性向上に取り組んできました。

クリアファイルに挟んだ紙のやりとりや保管をやめ、会議の配布資料もPCやタブレット経由での共有に切り替えたほか、デスクの引き出しまで撤去したことで、開始4カ月でオフィス内の紙文書を92%削減することができました。一覧性のよさなど、紙ならではのメリットもあるので全廃はしませんが、現在社員1人あたりの紙資料は、厚さにして10cm。ほぼファイル1冊分に収まっています。

――業務のペーパーレス化は、さまざまな形で生産性向上に貢献するようです。それらのメリットを、あらためて整理していただけますか。

古木氏: まず「会社で書類を保管しなければならない」という物理的制約から解放されます。デジタル化した書類をいつでも・どこでも見られるようにしておくことで、場所にとらわれない柔軟なワークスタイルが実現でき、書庫だったスペースも有効活用できます。

付加価値を生まない業務を削減し、限られた労働時間を有効活用できるという面では、会議につきものだった「資料を印刷し、順番にとじて並べる作業」が不要になることも大きいですが、もっとも効果が見込めるのは「勤務中の探しものがなくなる」点でしょう。デジタル化し、専用ソフトで一元管理している資料は、作成日や項目別、あるいはキーワード検索で瞬時に探しあてられます。つまりペーパーレス化することによって、実感としてオフィスワーカーが資料探しに費やしていると言われる「1人1日1時間」を、より有意義な業務に振り向けられるようになります。

さらにRPAに取り組む方々がよくご存じのとおり、定型業務の自動化においては「いかに “紙”を業務フローに介在させないか」がカギとなります。どうしても紙を使うしかない場合でも、記載内容をデジタルデータに変換できれば、以後の工程はロボットに任せて効率化できます。その意味で、イメージスキャナーとOCR、そしてRPAは、ペーパーレス化による生産性向上を図る上で切っても切れない関係にあるといえるでしょう。

OCRの認識率向上の一手は、「帳票の様式」見直しに

――RPAへの取り組みの経緯、また現在の活用状況についてはいかがですか。

浜崎哲也氏(業務統括部 ソリューション購買部部長): 当社では現在、基幹システムを刷新する構想が進んでいます。ペーパーレス化など、これまで積み上げてきた省力化の成果を新たな環境に移行させるためには、オペレーションの見直しが必要で、これに伴うデータ連携作業の発生も見込まれることから、それらを極力自動化していくツールとしてRPAの導入を決めました。

RPA活用の取り組みは導入から3年目となり、われわれの部署における「納品確認」の作業では、紙文書のスキャンと併用してRPAの本番運用を行っています。

――スキャナとOCR、さらにRPAの併用で、具体的に「納品確認」作業をどう効率化したのでしょうか。

当社では最適なソリューションをご提供する目的で、他社製品を自社製品と組み合わせて提案・販売することがあります。その際、他社製品が導入先に直送される場合でも、納品書は導入先のもとではなく当社に届きます。従来は、この納品書が届くと人間が購買履歴をシステムから呼び出し、納品書と購買履歴の内容を目視で照合後、製品の納品数と納品日をシステムに手入力した上で、納品書をスキャンして画像をデータベースに保存していました。

新たな方法では、最初に納品書をスキャンさえすれば、あとはOCRが注文番号を認識し、これをもとにロボットが自動でシステムを呼び出せるようにしています。

1日100枚にのぼる納品書と購買履歴の照合、納品日と納品数の入力、さらにスキャン画像の保存にいたるまで、すべてロボットに任せたところ、年間3人月相当のリソースを創出できました。いわば「パート1人分の働きをするデジタルレイバー」が新しい同僚になったという印象です。

――ロボットの構築と運用は、どのようにしていますか。

笈田幹則氏(業務統括部 グループリーダ): 業務を理解し現場を担当するわれわれと、今回使用した自社開発のOCRソフト「DynaEye EX」*1の商品企画担当者、さらにロボットの調達・開発を担当するIT推進部のメンバーが三位一体となりプロジェクトチームを構成して進めています。ソリューション購買部の各グループ単位で、改善すべき業務の洗い出しを現在進めており、今後その中からRPAの適用業務の候補が多く出てくるでしょう。

向井田絵理氏(同部): 私は日々の業務で、RPAツールの「WinActor」*2を使っています。これまでプログラミングの経験がなかったこともあり、最初は「時間をかけて操作を覚えるより手作業を続けていたほうが早いのでは」という気持ちもありましたが、実際に必要な知識を身につけるのは、思ったほど難しくありませんでした。

新たな気づきだったのは、ロボットの活用を通じて、私自身の仕事の進め方に対する考え方や姿勢に変化が起きたことです。ロボットといっても「操作さえ覚えれば、すぐひとりでに動いてくれる」わけではありません。ターゲットとなる作業を切り出し、ロボットに適した手順(プロセス)に並べ替えるといった準備に関わる中で、仕事の進め方そのものについて学ぶことも多かったように思います。

古木氏: 今後RPAを全社で展開していく中では、ロボットの作成や運用は各現場で行うのを基本に、「対象業務へロボットを落とし込むアドバイス」といった現場で解決できない課題のサポートをIT推進部が行う予定です。

――OCRの導入を考える企業が気にかける要素に「認識率」があります。実用に耐える精度が出せるか、それをどこまで伸ばせるか。貴社が工夫している例を聞かせていただけますか。

笈田氏: OCRソフトの性能が認識率に影響するのはもちろんですが、私どもは帳票の様式を改善し、スキャンや読み取りに最適化するアプローチからも、認識率を改善しています。

今回の例で言うと「記入欄の周囲を太枠で囲む」「ファクス受信時の歪みをスキャン後補正できるよう帳票に目印となるマークをつける」「西暦表示に統一するため日付欄の先頭に『20』を印刷しておく」などの見直しをしました。この結果、OCRの不正確な読み取りを修正する回数が、それまでの3分の1にまで減りました。

「オフィス見学」歓迎。“現場の工夫の紹介”が次のモチベーションに

――複数のテクノロジーを組み合わせて業務のペーパーレス化、デジタル化を推進されてきた御社が考える、業務効率化の特に重要なポイントは何でしょうか。

浜崎氏: OCRを使って堅実に業務改善を進めるという意味では「項目を絞って確実に読む」ことです。データベース上に記録がある事項は、無理に紙から読み取らなくても、後でひも付ければ事足ります。これをうまく利用し、誤認識の発生源を狭めておくことで、実用上十分な認識率まで到達するのが容易になります。

ただその場合、読み取り対象となる「商品コード」「注文番号」などは、他の情報と正しくひも付けを行う上でもきわめて重要な存在となります。そこで帳票を印刷する際、こうした基礎的な情報を数字や記号で記載せず、読み取りがより確実な「QRコード」にしておく方法も有効です。

――こうした場面で「QRコード」を使う発想に驚きました。

古木氏: 当社におけるOCRの認識率向上は、ここまで取り組んできた細かいノウハウの積み重ねです。社内的には「当たり前」で、あまり意識されないノウハウも隠れているらしく、実際の様子をご覧いただくのがいちばん早いかもしれません。

じかに体感していただきたいという意味では、われわれのペーパーレスの運用も同様です。紙を使わなくした職場も放っておくと元に戻ってしまうため、現場の事務処理を担う1人ひとりが常に知恵を出し、工夫を重ねているのですが、当人たちはそれが負担というより、むしろ日々の仕事のモチベーションにしているようです。当社オフィスは見学を歓迎しており「あれも・これも見てください」と応対するスタッフに、ご見学の方が「ずいぶん生き生きしている」と驚かれることも多いのですが、これはやはり「自分たちの創意工夫が多くの人の目に触れ、評価されている」ことが大きいように思います。

当社は、企業のペーパーレス化とデジタルトランスフォーメーションに必要なソリューション、サポート網を完備したベンダーです。ただ同時に“1ユーザー”の立場からも、それらがよりよい職場づくりにつながることを実証したい。そう考えています。

――本日はありがとうございました。

*1「DynaEye」は、株式会社PFUの日本国内における登録商標です。

*2「WinActor」は日本国内におけるNTTアドバンステクノロジ株式会社の登録商標です。

※「スキャナー市場シェア世界No.1」注記…ドキュメントスキャナーを対象とする。日本・北米はKEYPOINT INTELLIGENCE社 (InfoTrends)により集計(2017年実績)ドキュメントスキャナー集計よりMobile/Microを除く 6セグメントの合計マーケットシェア(主に8ppm以上のドキュメントスキャナー全体)。欧州はinfoSource社(2017年実績)の集計に基づく、西欧地区(トルコとギリシャを含む)におけるシェア


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